人生の悲喜こもごもを綴る演歌・歌謡曲には、疲れた人の心を癒す効果があります。「好き」を突き詰めるマニアをゲストに大阪の魅力を深ぼる「OSAKAマニア探訪」。今回は、バンド「赤犬」のメインボーカルで演歌や歌謡曲に明るい、タカ・タカアキさんにおすすめのスナックを案内していただきました。
紳士淑女の社交場として知られるスナック。その歴史は1964年、東京オリンピックでの夜の街の浄化を目的に施行された都道府県条例から始まります。バーやキャバレーが深夜営業をできなくなったことから、軽食(スナック)を出すバーですよ、と規制の目をかいくぐるために生み出した業態は、いまや日本の酒場を代表するジャンルの一つに。繁華街から下町まで、夜もふければさまざまな地域で、さまざまなお店が日夜元気に営業して酔客たちをもてなしています。
今回は梅田・十三・船場・心斎橋・難波など、比較的アクセスしやすいエリアに焦点を定め、6軒のお店を巡ってきました。
Guide
「エンターテインメントの卸問屋」こと13人編成のバンド「赤犬」のメインボーカリスト。大阪を中心にライブ活動を展開する一方、ライターとしても雑誌やウェブなど、さまざまなメディアで執筆を行っている。過去にカラオケ誌で編集・ライターを務めていたこともあり、演歌・歌謡曲への造詣が深いことでも知られている。趣味は猫と遊ぶことと銭湯巡り。
01.ありがっさま
奄美大島の銘酒と実家のようなくつろぎを
みなさまごきげんよう。「エンターテインメントの卸問屋」こと赤犬で歌など歌っているタカ・タカアキと申します。
インターネットやスマートフォンの普及により、近年は何をするにも便利な世の中になっておりますね。かくいう私も、そういったものの恩恵に預かって日々暮らしていますが、画面越しでどんな用事も済んでしまうと、直接人と会っておしゃべりやお酒を楽しみたくなるのが人情。そんなとき私は街へ繰り出し、スナックを求めて歩を進めるのです……。
というわけで1軒目に訪れたのは、梅田エリアの南東、お初天神に位置する「ありがっさま」。2024年でオープン20年を迎えるこちらは、奄美大島出身の内田サユミママの温かなもてなしを受けることができ、実家に帰ってきたかのような居心地のよい空間が広がっています。
もともと夜の世界とは縁がなかったサユミママでしたが、友人が経営していたお店を引き継ぐこととなり、50代になってから初めてスナックのママ兼オーナーに。
お店にはビジネスマンを中心に夜な夜なたくさんのお客が訪れますが、サユミママは「私はみなさんの遊び場を提供しているだけなので、好きに楽しんでもらえたら」と、いたって謙虚。毎日のように仕込んでいるお惣菜には、お客に喜んでもらいたいという真心があふれています。
こちらでぜひ飲んでおきたいのが、大阪ではなかなかお目にかかれない奄美大島の黒糖焼酎「紅さんご」。甘くまろやかな口あたりでついつい何杯もいってしまいそうな飲みやすさですが、アルコール度数40度と高めなので、飲み過ぎにはくれぐれもご注意を。
シャイで初対面の人と話すのは苦手というサユミママですが、やさしく包み込むようなチャーミングなお人柄には癒されることうけあい。基本は紹介制ですが、この記事を読んでくれたことを伝えれば来店OKとのこと。梅田で遊ぶ際は、ぜひ「ありがっさま」で奄美の風を感じてください。
取材時には自家製の梅酢で漬け込んだもずくや小豆島のしょうゆ豆などのお惣菜を出していただきました。どれも最高においしくて、お酒がめちゃ進みました!
02.ピコピコノルド
十三のレジェンドが伴奏してくれる、音楽愛に満ち溢れた老舗店
阪急電車に乗り込み十三で下車した私。お目当ての店を探しているうちに、ネオンがきらめく歓楽街へと足取りが進んでいきます。
目的地である2軒目のお店「ピコピコ ノルド」に到着。現在も出演させていただいている堺市のライブハウス「ファンダンゴ」がまだ十三にあった頃、幾度となく前を通っていたのですが、スナックだったことに気が付かず、今さらながら驚きました。
オーナーの武田道雄さんは、なんと御年83歳! 中学時代にはお兄さんの影響で音楽に目覚めて独学で数々の楽器を演奏するスキルを習得。1960年代前後にはハワイでバンドマンとして働いていたという経歴を持っています。30歳で「ピコピコノルド」をオープンされ、街の移り変わりを見続けている十三の生き字引のようなお方なのです。
そんな武田さんのこだわりで、お店ではカラオケ+生演奏を楽しめるのがポイント。店内にはアップライトピアノやドラム、ウクレレなどの楽器が常備されており、お客の歌に合わせて武田さんが伴奏を付けてくれるのです。せっかくなので私も1曲、大好きな秋庭豊とアローナイツの『あなたを口説きたい』を歌わせていただくことに。
武田さんのドラミングが力強いグルーブを生み出し、歌唱中はライブステージにも通じる高揚感が得られます。これが本当に気持ちよくて、お酒がまあ進むこと。
武田さんの歌声も聞いてみたいな〜とリクエストしたところ、ハワイアン時代の楽曲を歌ってくださり、その若々しい歌声に取材陣一同、驚愕。ピアノ演奏も披露され、83歳とは思えないエネルギッシュなお姿に、すっかりエネルギーをいただいてしまいました。
ちょっと不思議な店名は、武田さんの会社員時代の上司・北野さんにちなんで最初は「ノルド(北欧語で「北」の意味)」だったのが、アルバイトスタッフの「ピッコロとか、かわいい響きを加えたい」という提案で「ピコピコ」を加えたそうです!
03.よすか
船場の夜に浮かび上がる秘密の隠れ家
キタからミナミ方面へと移動し、続いてのお店がある南船場へとやってきた私。通りの隙間で光る「船場路地裏」のネオンに誘われ、細い路地を奥へと進みます。薄明かりの中、建物の入口に向かって歩いていくと、徐々に外界から切り離され、異世界に足を踏み入れるようなワクワク感に満たされていきます。
赤い絨毯を敷き詰めた階段の先にあるスナック「よすか」は、カウンターの他に広々としたボックス席も備えており、まさに大人の隠れ家と呼ぶにふさわしい空間が広がっています。
こちらは、京都祇園にある人気スナックのママ・髙橋愛さんが2年前に南船場でオープンした、会員制のスナック。
一見すると高級店のようですが、価格設定はチャージ1000円、ドリンク1杯700円〜と、いたってカジュアル。私も乾いた喉を潤すべくキンミヤのバイスサワーをいただき、おいしさのあまりついついおかわりしてしまいました。
階段と同じく真っ赤に統一された店内には、和紙職人のハタノワタルさんが製作した和紙を張り巡らせたカウンター、ボックス席には大阪の浮世絵専門店「西天満竹井」のコレクションが並び、愛ママの美学が感じられます。
客層は熟練スナッカーからアパレル関係、クリエイター、美容師など、職種も年齢層も幅広いのが特徴。異業種交流など人との出会いを楽しみたいスナックビギナーにとっては、うってつけのお店といえるでしょう。会員制のため、来店の際は信頼のあるお客からの紹介が必要となります。
愛ママのInstagramでは、お店の情報だけでなくめちゃくちゃおしゃれな和装・洋装のコーディネートも見ることができます。「よすか」のInstagram経由で、ぜひチェックしてみてください。
個性派が勢ぞろい! ミナミで行きたいニューウェーブスナック
04.stand ピピピッ!
ゴキゲンな乾杯が連鎖する、ニュータイプ立ち飲みカラオケ
スナックと聞くと、値段が分からない…と、不安を抱えてしまう方も少なくないはず。そんな方に入門編としておすすめしたいのが、まっピンクな内観がラブリーな立ち飲みカラオケ「stand ピピピッ!」。カラオケ歌い放題、チャージ500円、お酒は一杯500円均一、さらにはおやつも食べ放題という良心的な価格設定で、ビギナーにとってはこの上ないスナックデビューの舞台となっています。店主・かほちゃんのゴキゲンな接客も、緊張するあなたの心を優しく溶かしてくれるはず。
一見さんも大歓迎で、お客さんともすぐに打ち解けられるアットホームな雰囲気が魅力。気軽に歌って飲みたい!という方は、ぜひ訪れてみてください。
ピンクなネオンが一見怪しさを演出していますが、本当に毎夜お客さんで大賑わい。しかも、すべての金額が500円という驚きの明朗会計。初心者の方、必訪ですぞ!
05.スナック パーこ
歌う酔いどれママのナイスグルーブを味わえ!
続いて紹介するのが、さまざまな歌の舞台となっている宗右衛門町に居を構える「スナックパーこ」。こちらのお店は、昨年まで坂町エリアで営業していた人気店で、ママの独立を機に移転。若者からサラリーマンまで、街遊びの達人が集うスナックとなっています。しゃがれた声で「いらっしゃーい!」と出迎えてくれるママのパーこさんの人柄もあり、一見さんでもすんなり馴染むことができます。
ちなみに、パーこさんが本物そっくりな声で浜崎あゆみや倖田來未を歌い上げてくれる日もあり、聴けた人はラッキー。お値段もリーズナブルなので、カラオケバーとしての使い方で訪れるのもアリなお店です。
北新地ほどではないにせよ、ビギナーにとってハードルが高い宗右衛門町で、この良心的な価格設定はうれしい限り。店主の友達ライクな接客も相まって友達の家感覚でくつろげてしまいます。
06.Curry GAGA
日本初の試み? アメ村に潜む、会員制カレースナック
最後に紹介するのが、アメリカ村の会員制カレースナック「Curry GAGA」。会員制カレースナックとは? と、首を傾げる方も少なくないと思われますが、ここは文字通り、カレーが食べられる会員制スナックなのです。とはいうものの、カレー以外のフードも居酒屋レベルで充実しており、なおかつどれもが絶品。マスター・ガガさんのキャラも相まって連日満席という盛況ぶりです。もちろん、スナックなのでカラオケも歌えます!ちなみにお店の住所は非公開かつ、完全会員制。友人の紹介、または、ガガさんと街で出会って仲良くなる。この条件を満たせたらお店へと足を踏み入れられるシステムとなっています。
胃袋も心も満たしてくれる、まさにスナックの鏡のようなお店。深夜になるとジャンクな食べ物を食べてしまいがちですが、フードメニューに野菜や果物を豊富に取りそろえているのもうれしいポイントです!
話したい、飲みたい、歌いたい…人恋しくなったら迷わずスナックへ!
大阪で行ってみたいスナック6軒を紹介いたしました。最近、町中華や銭湯、純喫茶など、古き良きスタイルのお店に注目が集まっており、やはり対面のコミュニケーションは、いつの時代も必要であることを実感します。システマチックな世の中で、ふっと一息つける場所であるスナックもまた、なくてはならない場所。
これからも多くのお店が、おいしいお酒、そしてカラオケや楽しい接客とともに人々を癒していくことでしょう。特に、笑いと人情の街・大阪では、たっぷりと濃い〜やり取りが楽しめること間違いなし。個性豊かなママやマスターが、みなさんのお越しをお待ちしています!
※本記事は「しっとんか大阪」から移行したものです。掲載内容は2024年3月時点の情報であり、現在とは異なる場合があります。最新の営業状況や詳細は、各店舗・施設の公式サイトなどでご確認ください。
Photo:納谷ロマン
Edit:納谷ロマン(人間編集部)